地下鉄8号線の対案について
平成10年8月31日送付

大阪市交通局
企画課長様

前略
突然のお便りをお許し下さい。
私は以前から大阪市の観光・交通関係の提言をしており、経済局中小企業部都市観光課様等から表彰、大阪府から詳細提言の依頼(「関空土取り跡地」について)を戴いている者です。
この度地下鉄8号線の予算要求の話を新聞で拝見し、いても立ってもおられずお便りをさし上げた次第です。一時、事務所を都島に置いていたこと、市への提言の関係で生野区の方から取材したこと等からもぜひ御検討頂きたい案ですので、よろしくお願い申し上げます。

H7市道愛称準入選
H7-8水都大阪100選 佳作
H8府より詳細提言依頼「関空土取り跡地」
H8-9大阪魅力百科 優秀賞 優良賞 佳作
草々
 

必要とされる鉄道計画(大阪市内)
鉄道駅まで10分以上かかる地域、つまり駅から800m以上離れている地域は JR環状線の外の各方面に散在するが、特に顕著なものは次のとおりである。
1 大正区中南部及び港区南部、西成区南津守、住之江区柴谷
2 東淀川区東部から旭区、都島区の北部にわたる地域
3 生野区中心部
4 此花区北西部
5 北区大淀北、大淀中3,4,5丁目
6 淀川区十三駅と新大阪駅との中間地域
7 城東区古市2,3、鶴見区1,2,3、旭区6,7丁目など
8 鶴見区安田、今津北
9 淀川区十八条
10 淀川区加島2,4丁目、田川
11 平野区周辺
12 東住吉区公園南矢田

このうち規模が大きくかつ都心部に接しているものは1〜4である。
特に2及び3は今回の地下鉄8号線計画(及びその延伸計画)の対象となっているが、現状の計画では地域住民にとって必ずしも最適なものではなく、他方その為に経営的に問題を抱える恐れが大きいものである。以下、1から3の地域について最適な計画を検討する。

1 大正区中南部及び港区南部、西成区南津守、住之江区柴谷
大正区においては、地下鉄長堀鶴見緑地線の早期延伸が望まれる。それでも大運橋交差点以遠を西進すれば住之江区芝谷が、南進すれば大正区鶴町が積み残しとなる。また、いずれの場合も港区南部と西成区南津守は利便性向上の対象外となる。ネットワーク的および地下鉄長堀鶴見緑地線の経営的に望ましいのは、南進して最終的にフェリーターミナルに接続することである。ただし、四つ橋線の乗客は、本線に食われることになる。ニュートラムは一部食われるが、本線から難航コスモスクエア地区への足としての利用が望める。積み残しとなると言った大正区鶴町においても、一定の利便性の向上を図れる。

2東淀川区東部から旭区、都島区の北部にわたる地域
本地区も長らく利便性の向上を望まれた地区である。道路の内環状線に沿って地下鉄8号線(以下8号線と言う)を整備する案があるが、東淀川住民の便を考えれば、遠回りや乗り換えをせずに区役所や梅田、京橋などの中心地と結ぶ経路が望ましい。さらに、環状鉄道は、既にJR外環状線が既存施設を応用する形で運行されることが決まっており、これと競合しないことが経営的に望ましい。
JR外環状線は8号線と同様に主に市の東部を南北に結ぶ計画である。一方8号線と異なり新大阪駅、京橋駅(付近)があるとは言え、それでも経営困難が予想されている。このため恐らくJR自社の他の線の列車の乗り入れを積極的に進め、JRのネットワークの一部として外環状線を活用し、競争力を高めるだろう。
そうなったとき、8号線の運命は悲惨だ。直接遠くにつながらず、直接都心駅にもつながらない、便数が少なく、値段が高い線路に誰が乗るだろう。大阪市政始まって以来の無駄遣いになることは明白である。

ネットワーク的および新線の経営的に望ましいのは、モノレール摂津南から産業道路沿い瑞光、大桐豊里、菅原(区役所近い)と来て淀川を渡り、城北公園、赤川でJR外環状線と連絡してからも南下し、京橋に至るというルートである。
これは近くて遠い京橋を抱える都島区民にとって待望のルートである。区役所に行くのも便利になる。また、旭、東淀川両区民にとっても京橋に直接行けるだけでなく、ひと乗り換えで梅田にも行け非常に便利である。一方谷町線都島以東の地下鉄利用者にとっても京橋や城北公園に行きやすくなる。
そして本線を地下鉄7号線に乗り入れると東淀川、旭、都島区が心斎橋や大阪ドームと直接つながるだけでなく、既存の地下鉄全線と接続し、梅田での乗り換えによる混雑も大幅に緩和できる。
リニアのミニ地下鉄で建設すると、掘削費も節減できる上、7号線で費やした開発費も活きてくる。さらに、結果的に京橋以西の7号線の便数が増えるため利便性が向上し、利用客増による7号線事自体の売上増も期待できる。(軽い車両でワンマン運行という、運転経費の少ない7号線では、便数増による収益向上が特に期待できる。)

3生野区中心部
千日前線を鶴橋から分岐し今里付近から南下、「御幸通りコリアタウン」を経て大池橋方面に至る支線を建設する。生野区民の活用する都心が難波であること。逆に都心から集客都市の目玉のひとつである、日本最大の外国人街生野区を代表する中心部「御幸通りコリアタウン」(大阪の集客都市としての魅力発見企画「大阪魅力百科」優秀賞)へのアクセスを確保すること。その両面から考えて生野区中心部は難波と結ぶべきである。
地下鉄8号線で難波を通る千日前線と接続する計画もあるが、8号線に一駅だけ乗って、都合2回も乗り換え待ちをして千日前線に乗るくらいなら、多くの生野の人は自転車で今里や鶴橋に行き直接千日前線に乗るだろう。直接千日前線に乗り入れない8号線は、この地区の人にとって、あまり価値の無い路線である。
一方千日前線においては鶴橋以西で便数が増えるため、利便性が向上する。またコリアタウンにも行けるため、大阪地下鉄赤字路線の代表である千日前線も利用価値が上がり、収益率も上がるのではないか。

以上取り急ぎ重要と思われる3地区について、望ましいと思われる地下鉄の計画をまとめた。
心底から大阪の発展を期待する人間として、首都ではない大阪の鉄道計画には最大限の合理性が不可欠と考える。上記は「市民も喜び市ももうかる」合理的な案と考えるが、いま市及び近畿運輸局による地下鉄8号線の計画が上記?及び?に述べたように「合理性」から大きくそれつつあると感じ、急遽直接提案した。
後世になって、建設時に十分な検討が無かったから鉄道計画に失敗し大阪の活力が減退した、との事態にならないことを心から願う。この私案も専門家だけでなく、広く発表し実際の世間の評価を仰ぎたい。
着工する前に、心して検討していただきたい。

平成10年8月28日 
山根 秀宣 


返 答

上の画像をクリックすると返答手紙の紙面(下記の原紙)が表示されます。

返答全文(左欄)
<アンダーライン、文字色、太字、(番号)、は筆者(omp)が付けた。
アンダーラインは筆者と意見を異にする主張。太字はそのキーワード(考えの狭い点)。
青地の (番号) 及び 着色部 は右欄で誤りを指摘。>

平成10年12月18日
山根 秀宣様
大阪市交通局長
笹倉 和忠
(担当 広報係)
 市営交通に関するご意見をいただきまして誠にありがとうございます。
 大阪市におきましては、地下鉄を根幹とし、これにバスを組み合わせた公共交通ネットワークにより、通勤通学をはじめとする都市活動を支えているところでございます。

 地下鉄は地球環境を保全し、エネルギー効率に優れた、21世紀を迎える大阪市にとって極めて重要な交通機関であると考えており、公共交通と自動車交通との適正なバランスを図るという総合交通体系確立の考えのもとに、大阪市のまちづくりを支える都市基盤設備として、今後とも整備を進めていくよう考えております。

 路線網の整備にあたっては、利用者の利便性を第1に考え、これまで、都心部では格子状の、周辺部では放射状の地下鉄ネットワークの整備に努めてきました。その中で、ご提案のように、出発点から目的地まで乗り換えの生じないような地下鉄路線網の整備が理想でありますが、あらゆる需要に対して出発点と目的地を直結する路線整備は現実的には不可能でありますので、路線整備にあたっては、地下鉄路線同士をうまく接続することにより地下鉄ネットワークを形成し、できるだけ1回の乗り換えにより目的地に到達できるような地下鉄路線の整備を進めていくことが、現実的な方策であるとかんがえているところであります。(1)

 今後の地下鉄整備につきましては、マスタープランにも示しておりますように、鉄道利用が不便な地域の解消を図るとともに、乗り継ぎの不便さの解消・軽減を図り、鉄道の利便性を高めるため、路線間の連絡の向上や既設線路の補完の為の新線の建設などについて取り組んでいくこととしており、平成元年に出された運輸省政策審議会の答申第10号に基づいて、「交通事業の設置等に関する条例」に組み込んでいる計画路線の整備に取り組んでいるところでございます。

 条例の計画路線には大阪市の周辺地域における未整備路線として、森小路大和川線、敷津長吉線、地下鉄7号線(長堀鶴見緑地線)の延伸、地下鉄5号線(千日前線)の延伸の4路線が盛り込まれており、その中でも、特に人口が密集しているうえ、近年住宅整備が急速に進展を遂げていることから、森小路大和川線を地下鉄8号線として整備を図ることとしております。

 地下鉄8号線につきましては、これまで、早期に整備が図れるよう、国に対して協議・要望を行ってきましたが、このほど平成11年度予算に向けての運輸省の概算要求に盛り込まれ、今後、本格的にその整備に取り組んでいくよう考えているところであります。

 さて、ご提案の8号線のルートについてでございますが、ご指摘のように8号線の整備により、東淀川区や旭区、生野区、東住吉区などに残されている鉄道駅から遠く鉄道利用が不便な地域が大幅に解消されると考えており、少しでも安価な建設費により整備できるよう道路下を活用するためには、現在計画を進めているルートより良いと考えております。
この路線は、既存の2号線(谷町線)、7号線(長堀鶴見緑地線)、4号線(中央線)、5号線(千日前線)の4路線と接続して地下鉄ネットワークを形成し、ご指摘の梅田や京橋だけでなく、本町や難波などの都心やほとんどの地下鉄沿線に対して、8号線沿線から概ね1回の乗り換えにより到達することが可能となります。

 次に、8号線のルートが JR大阪外環状線と競合するとのご指摘でありますが、基本的にJRは市外から大阪市やさらには先の都市への広域的な輸送需要に対処する機能を持った路線であり、市民の足として市内交通を担う地下鉄とは性格を異にするものであります(2) さらに、JR大阪外環状線と地下鉄8号線は、一部関目から鴫野付近において接近してはいるものの、その他の区間では2〜3km離れていることから、路線同士が競合するとは考えにくいと思われます。(3) 

 また、8号線を7号線に乗り入れた方が利便性が向上することのご意見ですが、7号線の駅間はシールド工法により施工されており、7号線を営業しながら渡り線を開削工法により施工することは不可能であります。(4) さらに、8号線を7号線の分岐路線とすれば、東淀川区や旭区などと7号線沿線の心斎橋、大正などとは乗り換えなしに直結されることにはなりますが、分岐点から8号線の北側及び7号線の東側の区間については、都心方向に乗り入れる本数の制約から運転間隔が粗くなり、ピーク時間帯などには輸送力が不十分でかえって不便になることが予測されます。(5) 8号線と5号線に乗り入れる場合にも同様なことが言えます。したがいまして、8号線は既設線とは当初から別路線として整備して十分な輸送力を確保し、1回の乗り換えにより8号線沿線から梅田、京橋、本町、心斎橋、難波などに到達できる現ルートが最も合理的であると考え、少しでも利便性を高めて輸送需要を確保することとしております。ただし、接続駅ではできる限り乗り換えのしやすい構造とし、抵抗を軽減するためにエスカレーターやエレベーターを整備することは是非とも必要でありますし、少しでも建設費のかからない地下鉄として、7号線で採用したリニアタイプの中型地下鉄の採用により、できる限りコスト削減に努めることは言うまでもありません。

 最後に、8号線の整備が地下鉄事業全体に与える影響についてでございますが、8号線の整備にあたっては、全路線を含めた経営について十分に検討を重ねてきており、長期的な見通しの中で収支が確保できるものと考えております。(6) 
一方、7号線の大正から先の延伸につきましは、大正区内と都心を結び、鉄道空白地帯への地下鉄サービスを提供する路線として必要でありますが、現在、40mの道路を活用して張り出しバス停やバス専用レーンを設置した都市新バスシステムの導入により高速、高密度の輸送サービスを提供しており、現在の輸送需要に対処できていると考えております。路線整備にあたっては、輸送需要の確保が是非とも必要でありますので、通勤通学輸送需要とともに少しでも多くの輸送需要が確保できるという観点から、沿線の地域整備計画の進捗についても十分に勘案して計画を立案する必要があると考えております。

 地下鉄は、都市活動を支える重要な市民の足としてだけでなく、快適で利便性の高いまちづくりを進めるための大切な基盤設備であることから、今後とも、地下鉄整備に取り組んで参りたいと考えておりますので、何とぞご理解のほどよろしくお願い申し上げます。
 

(問題を指摘)
アンダーライン部(1)〜(6)に関する私見(予算化・着工後もHPなど折に触れ反論)
 
 
 
 
 
 
 
 

(1) そもそも「あらゆる需要に対応する」必要は無い。こちらの案は需要が多いところは直結して、少ないところは1回乗り換えで対応が可能であり、意味の無い仮定を出すのは作文上の屁理屈である。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

(2) ユーザーにとって、JRが「広域交通」とか、地下鉄が「市内交通」とかは、関係無い。大正駅から梅田でも地下鉄よりJRが安くて早いので、そちらを使う。(弁天町天王寺は言うに及ばず) この場合、JRの方が市内交通の役割を果たしていると思えるがどうか。つまり安いか、早いか、便利かが基準であって、たとえ1回でも乗換えを前提とするものは(値段は高いので)3つとも失格で地下鉄は選ばれないのである。(8号線の建設委員会でも多くの人が8号線の不採算を指摘している。)

(3) 実際はおおむね1〜2kmで、乗換え(=待ち時間含む)があるならその区間は自転車で飛ばすのが大阪人である。

(4) 1回限りの重大な工事をするのに、「営業しながら」する必要が無い。終電後の夜間を利用して少しずつ進め、長時間必要な工事は一時的に運行を停止すればよい。その後の長い不採算を考えると、わざわざできない仮定まで出して否定しているより、あらゆる技術で「分岐案こそ目的」として検討することが重要。

(5) 例えば谷町線の都島駅以北は2本に1本しか運行されていない。他も同様。むしろ地下鉄はJRのようにひとつの線路を多くの経路で有効使用しておらず、中心部でも運転本数が少ない。これが不便を呼び利用者離れにつながっている。市内住民が急増しており、地下鉄は利用急増があってしかるべきだ。

(6) 当の建設委員を含め、私以外にも不採算を指摘する声は多い。交通量予測の専門家である私の友人も不採算と言う結論を出している。ニュータウンなど発展途上地域の鉄道の場合、短期的には不採算でも、人口が増えれば長期的に採算が取れることもあろうが、今回の計画地域は思いっきり下町で人口密度が既に高い所であり、(全部さらえて超高層にする気か知らんが、それでも、地下鉄の不便さゆえに需要が増えまい)将来の収支改善は望み薄。それどころか不採算の累積でATC、WTC、OCATと同じく、税金補填となろう。市のすべての事業を採算で考えるのには組しないが、地下鉄の場合便利で需要が増えれば採算も良くなる点で利害が一致する。どう掘っても高価なら、できるだけ短い距離で、需要が最大限に見込めるベストのルートで考えるべきだ。

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